26.02.23 妊娠前から妊娠中のバセドウ病の薬物療法
まとめ>
・妊娠10週をピークにFT4の軽度上昇とTSHの低下をしばしば認める。
・TSHの下限値はhCGの影響で妊娠経過中は低値であっても正常である。
・胎児は妊娠18〜20週からT4分泌を開始するので、妊娠20週頃から胎児甲状腺を考慮すること。
・MMI奇形症候群の頻度は少なくとも1.8%以上との報告があるため、器官形成期である妊娠初期は可能な限りMMIの投与・継続を避ける。
・妊娠可能年齢のバセドウ病女性すべてを対象に妊娠前相談を行い、個々に応じた妊娠前管理方法を選択する。
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・妊娠20週以降は、胎盤移行した抗甲状腺薬による胎児甲状腺機能抑制を考慮する。
・母体へ投与された抗甲状腺薬は、母体より胎児の甲状腺機能をより強く抑制する。
・妊娠後半になっても、TRAb≧10 IU/Lの場合は、新生児バセドウ病発症の可能性が高くなる。
・外科治療やアイソトープ治療の既往のある患者は、母体の甲状腺機能が落ち着いていても、妊娠20週までにTRAbを測定する。
・1日300mg以下のPTU、1日10mg以下のMMIであれば、完全母乳であっても児の甲状腺機能に影響はないとされ、それ以上の甲状腺薬内服の場合は服用から6時間までは人工栄養とするか、乳児の甲状腺機能のチェックを行う。
・授乳中の母体への無機ヨード投与は極力避けるか、やむを得ない場合は乳児甲状腺機能のチェックを行う。
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・バセドウ病の場合、産後2〜4ヶ月時に約80%は甲状腺中毒症を示す。
・TRAbが同時に悪化する場合は再燃の可能性が高く、TRAbに変化がなければ破壊性甲状腺炎を考えて対症療法にて経過をみる。
2014年文献
妊娠4〜15週、器官形成期である妊娠初期はMMIの継続を避ける。
MMI奇形症候群に最も関連した暴露時期は妊娠5〜9週と言われているため、日本甲状腺学会は2019年のガイドラインで妊娠5週0日から妊娠9週6日まではMMIの使用を避けることを強く推奨している。
PTUを第一選択薬とするかヨウ化カリウムを用いる。
妊娠初期のチアマゾール(MMI)の胎児への暴露は、頭皮欠損、食道閉鎖、気管食道瘻、後鼻腔閉鎖、臍腸管遺残、臍帯ヘルニア、顔貌異常、精神発達遅滞などの組み合わせを示す奇形症候群(MMI奇形症候群)と呼ばれることが明らかにされ、日本では特に臍腸管関連奇形と臍帯ヘルニアとの関連性が強いとされている。
その頻度は少なくとも1.5%以上であり、妊娠7週以降までMMIを継続した場合の頻度は約7%との報告もあるので。
妊娠したら>
・MMI内服中の患者に妊娠が判明した場合、妊娠がわかれば速やかにプロピルチオウラシル(PTU)に変更する。
・但し、MMI維持量5〜10mg/日で甲状腺機能がコントロールできている、かつTRAbが低力価の妊婦では抗甲状腺薬の中止も可能であり、中止後にFT4の上昇を認めるようであれば、低用量の無機ヨウ素投与(無機ヨウ素として1日20mg以下)によってコントロールできることが多い。投与は11週までにしておく。
例えば、無機ヨウ素投与量が10mg/日だったとしても、日本人の食事摂取基準では1日あたり約1.0〜3.0mgとされているので、3ー10倍の多い量である。胎児の甲状腺のヨウ素取り込みを開始する12週までには別の方法を検討する。
・無機ヨウ素薬には催奇形性の報告はない。
妊娠10週以降>
PTUや無機ヨウ素薬では十分な甲状腺機能のコントロールが難しい場合、副作用などによる禁忌がなければ、MMIに変更し、確実にコントロールすることを検討する
妊娠中期(妊娠16週〜)以降>
・MMIを第一選択薬とする。
・PTU200〜300mg/日(分2〜3)、MMI15〜30mg/日(分1)で開始する。
- 2週毎にFT4値およびFT3値を見ながら漸減する。
- 通常通り最低2ヶ月間は2週間毎に白血球数、白血球分画及び肝機能をチェックし、無顆粒球症の症状出現時(38度以上の発熱や咽頭痛)を認める場合には医師に連絡するよう説明する。
- 妊娠中期になっても抗甲状腺薬が大量に必要な場合や副作用のため抗甲状腺薬が内服できない場合には、熟練した施設での外科手術を考慮する。
- 妊娠中の131ヨード内服療法は禁忌である。
- なるべく妊娠前半から妊娠中期までに甲状腺機能を正常化し、薬量を減量することを目指す。
- その際は母体のFT4値の低下を避け、TSHを基準値以下に保つように抗甲状腺薬の減量を行い、胎児への薬剤過剰を回避する。
・外科治療や131ヨード内服療法の既往のある場合、母体の甲状腺機能が落ち着いていても妊娠20週までにTRAbを測定する。
抗体価が高い場合、TRAb10IU/L以上の場合、胎児心拍数や経腹超音波検査による胎児甲状腺機能モニタリングが行われる専門施設に紹介する必要がある。
胎児に頻拍や胎児甲状腺腫、膝部位の骨化亢進などの甲状腺機能亢進兆候があれば、胎児治療として母体経由で抗甲状腺薬を開始する。MMIが第一選択薬を開始する。
母体の甲状腺機能が低下するようであればレボチロキシン補充療法を行う。
妊娠20週以降>
・胎盤を移行した抗甲状腺薬は、母体より胎児の甲状腺機能をより強く抑制する傾向がある。
・甲状腺の手術やI-131アイソトープ内用療法の既往のない場合は、抗甲状腺薬とレボチロキシンの併用療法は胎児甲状腺抑制による胎児甲状腺腫の原因になるので行わない。
・妊娠20週以降にTRABが5IU/L以上の場合は、胎児・新生児甲状腺機能亢進症を生じる可能性があり、甲状腺刺激抗体TSAbを測定してリスクを評価する。
妊娠後期(妊娠28週以降)>
抗甲状腺薬が中止できない場合、産科医との情報共有が重要である。
胎児の甲状腺機能低下を避けるため、妊婦のFT4値を非妊娠時の正常上限付近に維持すると、母体が甲状腺機能亢進症になりやすく、胎児甲状腺腫は必ずしも回避できないことがあるから。
追記 Geminiのコメント>
- なぜ母体を「正常上限付近」に保つのか
胎盤を通過する物質の性質が大きく関わっています。
- 抗甲状腺薬(MMI/PTU)は胎盤を通過しやすい: 母体のホルモンを抑えるための薬は、胎児の甲状腺にもしっかり届いてしまいます。
- レボチロキシン、甲状腺ホルモン(T4/T3)は胎盤を通過しにくい: 母体のホルモンが多少高くても、胎児に移行する量は限られています。
もし母体のFT4を「正常中央値」まで下げようとして抗甲状腺薬を増量すると、胎児にとっては**「薬が効きすぎた状態」**になり、胎児甲状腺機能低下症を引き起こすリスクが高まります。そのため、あえて母体を「軽度の甲状腺機能亢進状態(正常上限付近)」に置くことで、抗甲状腺薬の投与量を最小限に抑え、胎児の機能を守るという戦略をとります。
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胎児甲状腺機能低下との関連性
母体が亢進気味であること自体が胎児を低下させるのではなく、**「胎児の低下を防ぐための安全マージンとして、母体の亢進を許容している」**という関係性です。
授乳中のバセドウ病の薬物治療>
産後にバセドウ病が悪化することが多い。
授乳中は1日10mg以下のMMI、1日300mg以下のPTUであれば、完全母乳であっても児の甲状腺機能に影響はないと言われている。
それ以上の抗甲状腺薬内服の場合は、服用から6時間までは人工栄養とするか、乳児の甲状腺機能のチェックが勧められる。
授乳中の無機ヨウ素治療は極力避けるか、やむを得ない場合は乳児の甲状腺機能チェックを行う。
乳腺上皮細胞のナトリウムヨウ素トランスポーター母乳中へヨードが濃縮されて分泌されるから。
授乳中の131I内服療法は禁忌である。
参考文献>
荒田尚子 日内会誌113:635-640,2024 一部改
荒田尚子 Medical Practice 31(11):1801-5,2014




