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甲状腺の解剖生理とその機能

甲状腺の解剖生理とその機能

  • 甲状腺は甲状軟骨のやや下に存在する内分泌臓器である。
  • 甲状腺は甲状腺ホルモンを作り、血中に分泌している。甲状腺ホルモンは、新陳代謝を調節し、成長や発達を促している。
  • 甲状腺ホルモンにはトリヨードサイロニン(T 3)とサイロキシン(T 4)の2種類があり、T3は活性型ホルモンで、T4はT 3の前駆体ホルモンである。
  • 甲状腺ホルモンの合成は、サイログロブリン(Tg)を母体としてヨウ素を材料に濾胞で行われる。甲状腺ホルモンは濾胞腔内に貯蔵され、需要に応じて血中に分泌される。
  • 甲状腺ホルモンは、下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(T S H)によって調節される。
  • 甲状腺ホルモンは、細胞の核にある甲状腺ホルモン受容体に結合し、遺伝子の転写の制御を介しホルモンの作用を発揮する。

 

甲状腺の解剖(図①)

 

甲状腺は、甲状軟骨のやや下にある内分泌臓器で、蝶が羽を広げたような形で、気管に張りついている。 甲状腺は右葉、左葉 及び右葉と左葉をつなぐ峡部からなり、 峡部から上に伸びる錐体葉を有することがある。 成人の甲状腺重量は約15〜20gで、片葉の長さは約4cmである。 正常の甲状腺は触知できない。男性は甲状軟骨の位置が低いため、甲状腺も女性より低い位置にある。

甲状腺は血流が豊富な臓器であり、上甲状腺動脈と下甲状腺動脈による血流支配を受けている。 上甲状腺動脈は外頸動脈から分岐しており、 下甲状腺動脈は鎖骨下動脈の枝である甲状頸動脈より分岐している。 甲状腺の背側には、副甲状腺があり、反回神経が走行している。副甲状腺はカルシウムやリンの代謝に関与しており、反回神経は声帯の運動を支配している。

 

甲状腺の働き(図②)

甲状腺は、甲状腺ホルモンを作り、それを血中に分泌している。甲状腺ホルモンは全身の臓器・細胞に作用し、生涯にわたって新陳代謝を調節している。また、甲状腺ホルモンは胎児期から成人までの成長や発達を促しており、脳や神経の発達、骨の成長・発育に重要な役割を果たしている。甲状腺は甲状腺ホルモンとは別にカルシトニンと言うホルモンも産生しているが、ここでは詳細は省略する。

甲状腺のホルモンについて(図③)

甲状腺ホルモンにはトリヨードサイロニン(triiodothyronine : T3)とサイロキシン(thyroxine : T4)の2種類がある。図3のようにヨウ素が3個ついたものが、T3、ヨウ素が4個ついているものがT 4である。

甲状腺からは主にT 4が分泌されており、T 4は全て甲状腺から分泌されたものである(図④)。T3も一部は甲状腺から分泌されるが、T3の約80%は、肝臓や腎臓などの末梢組織でT 4から変換されて作られたものである。 そのため、甲状腺ホルモンを補充する 治療にT4だけを使用しても、多くの場合はT3も正常になる。

T3の方がT 4より甲状腺ホルモンの生理活性が強く、最終的に甲状腺ホルモンの作用を発揮するのはT3である。つまりT3が活性型ホルモンで、T 4は T 3の前駆体ホルモン(プロホルモン)である。

血液中のT3、T4のほとんどは、サイロキシン結合グロブリンなどのタンパク質と結合して存在しており、ごく微量の遊離型ホルモンが作用を発揮する。そのため、甲状腺機能を評価するためには、遊離型の甲状腺ホルモンである遊離型T3 (free T3、FT 3)、遊離型T4(free T4、FT4)を測定する。

 

甲状腺ホルモンの合成、貯蔵、分泌(図⑤)

甲状腺には、濾胞と呼ばれる袋が多数詰まっている。濾胞は単層の濾胞細胞で囲まれた袋で、その中はコロイドと言うゼラチン状の物質で満たされている。濾胞と濾胞の間には豊富な毛細血管が存在する。 甲状腺ホルモンの合成は、ヨウ素を材料に濾胞で行われる。甲状腺ホルモンの合成、貯蔵、分泌過程の概略を説明する。

ヨウ素の取り込み

食事から吸収されたヨウ素は、甲状腺濾胞細胞に取り込まれる。ヨウ素は、側定膜(basolateral membrane)にあるNa/I -symporter(NIS) と言う輸送体により能動的に濾胞細胞内に輸送される。細胞内に取り込まれたヨウ素は頂端膜(apical membrane)にあるペンドリンというタンパク質とその他の輸送体により濾胞腔内に排出される。

ヨウ素の有機化

サイログロブリン(thyroglobulin : Tg)というタンパク質が甲状腺ホルモン合成の母体となる。Tgは濾胞細胞で合成され濾胞腔内に分泌される。ヨウ素は、甲状腺ペルオキシダーゼ(thyroid peroxidase : TPO)と過酸化水素の働きにより、Tg分子内のチロシン残基に結合する。ヨウ素が1個結合したものが、モノヨードチロシン(monoiodotyrosisne : MIT)、ヨウ素が2個結合したものがジヨードチロシン(diiodotyrosine ; DIT)である(図6。 この過程をヨウ素の有機化と呼ぶ。抗甲状腺薬及び大量のヨウ素は、この有機化を阻害する。

③縮合

2個のヨードチロシンが縮合して、T3またはT4を形成する。この縮合もTPOにより触媒される。MITとDITが縮合するとT3、DITが2つ縮合するとT 4の形ができる。抗甲状腺薬はこの過程も阻害する。

④貯蔵・分泌

T3、T4を含むTgはコロイドとして濾胞腔内に貯蔵される。甲状腺ホルモンの需要に応じて、エンドサイトーシスによりTgが濾胞細胞内に取り込まれ、タンパク質分解酵素によりT3、T 4がTgから分離し血液中に分泌される。甲状腺ホルモンの分泌はヨウ素及びリチウムにより阻害される。

 

 

甲状腺ホルモンの調節(図⑦)

甲状腺ホルモンは、下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH) というホルモンによって調節されている。T SHは甲状腺ホルモンの合成、分泌を刺激している。下垂体は甲状腺ホルモンの過不足を感知し、血中の甲状腺ホルモン濃度の恒常性を保つためにTSHの分泌を調節している。例えば、甲状腺ホルモンが過剰な場合は、下垂体のTSH分泌が抑制される(ネガティブフィードバック)。 逆に甲状腺ホルモンが不足している場合は、下垂体のTSH分泌が増加する。

また、さらに詳しく説明すると、視床下部から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin releasing hormone:TRH) と言うホルモンは下垂体からのTSH分泌を促進している。甲状腺ホルモンが過剰な場合は、視床下部のTR H分泌も抑制され、間接的にも下垂体の TSH分泌が抑制される。

 

甲状腺ホルモンの作用機序(図⑧)

甲状腺ホルモンは、細胞の核にある甲状腺ホルモン受容体(thyroid hormone recepter : TR)に結合し、遺伝子の転写を制御することにより、ホルモンの作用を発揮する。 ほとんどの甲状腺ホルモンの作用は、核内のTRを介する遺伝子転写制御によるものだが、核内のTRを介さないnon-genomic作用も報告されている。

参考文献>濱田勝彦:月刊薬事,62(13):19-23,2020 一部改変

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