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抗スクレロスチン抗体製剤

はじめに

古典的Wntシグナルの活性化により、骨芽細胞への分化が促進され骨形成が促進される。一方、破骨細胞誘導因子RANKLの発現抑制と共に、そのデコイ受容体osteoprotegerin(OPG)の発現が促進され、骨吸収は抑制される。また、破骨細胞に直接作用し破骨細胞分化を抑制するとの成績もある。こうしてスクレロスチンが古典的Wntシグナルの制御を介して、骨量の維持調節に重要な役割を果たすことが明らかとなり、スクレロスチン作用の阻害により骨形成を促進しつつ骨吸収は抑制するというこれまでにない骨粗鬆症治療薬への臨床応用が進むこととなった。

第I相単回投与試験

スクレロスチン作用を阻害するヒト化モノクローナル抗体ロモソズマブが作成され、スクレロスチンの同定からわずか10年後の2011年には、ロモソズマブを用いた第Ⅰ層単回投与試験成績が発表された。現在の臨床用量に近い3mg/kg皮下注により、骨形成マーカーP1NPは2-3週後をピークとしてほぼ2倍に上昇し8週後には前値まで低下する一方、骨吸収マーカーCTXは2週後に40%近く低下し8週後にもなお前値より約20%低値を示した。骨密度は単回投与8週後には腰椎で約3%、大腿骨近位部でも約0.5%程度の増加を示した。

プラセボ対照の骨折防止試験 FRAME

ロモソズマブ(イベニティ? 以下、Rom)の閉経後骨粗鬆症に対する効果を示す第Ⅲ相臨床試験として、Rom 210mg毎月皮下注群3589例とプラセボ対照群3591例にそれぞれ12ヶ月投与し、12ヶ月と24か月の新規椎体骨折の発生率を主要評価項目とし、臨床骨折(非椎体骨折+臨床椎体骨折)と非椎体骨折を副次項目としたFRAME試験が行われた。プラセボ対照試験のため、腰椎またはTotal-Hip骨密度-3.5≦Tスコア≦-2.5で、大腿骨近位部骨折や重症椎体骨折を有するか中等症椎体骨折を3個以上有する高骨折リスク例は除外された。血清25-ヒドロキシビタミンD[25(OH)D]濃度≧20ng/mLの例を対象とし40ng/mL以下ならビタミンD5万~6万単位を試験開始時に深し、カルシウム500-1000mgとビタミンD600-800単位を連日補充下で実施された。

新規椎体骨折発生率は、12か月後にプラセボ群(1.8%)に対しRom群(0.5%)で73%抑制され、24か月後にもRom群(0.6% vs プラセボ群2.5%)で75%もの著明な抑制が認められた。臨床骨折の発生は12か月後には有意に抑制されていたが、24か月後には有意差なく、また非椎体骨折子12ヶ月、24か月共に有意な抑制はみられなかった。これは症例の43%を占めた中南米の参加者にFRAXによる骨折リスクが低く骨粗鬆症と判定しがたい例が多かったことによると推測された。

FRAXスコアの高い骨粗鬆症症例のみで再解析した結果、Romの1年投与で非椎体骨折がプラセボ群に対して36%も抑制されていた。

Rom投与12ヶ月後の13.3%もの腰椎骨密度増加効果は、DmabのFREEDOM延長試験でのDmabの4年9か月投与後の効果と同等であり、Rom12ヶ月に続きDmabを12ヶ月逐次投与後にはFREEDOM延長試験でDmabを7年間投与した効果と同等であった。したがって、高骨折リスク患者にはRomで礎を築いた後にDmab等の骨吸収抑制薬を投与するのが望ましい(Foundation効果)と考えられている。

ビスホスホネート投与後の患者でテリパラチドの効果と比較したSTRUCTURE試験

テリパラチドの骨形成促進効果は骨リモデリングに依存した効果であることから、ビスホスホネートにより骨吸収を抑制した状態で直ちに投与すると減弱する。一方、Romの骨形成促進効果は、リモデリングに依存しないモデリングを主体とする効果である。

そこで、ビスホスホネートを3年以上投与し、試験前1年間は全員アレンドロネート(ALN)を投与された55-90歳の閉経後骨粗鬆症女性で、腰椎か大腿骨骨密度Tスコア≦-2.5かつ既存骨折を有する高骨折リスク患者436人を対象とし、12か月間Rom210mg毎月皮下注とテリパラチド20μg連日皮下注の効果を比較するため、大腿骨近位部骨密度の6か月と12ヶ月の平均増加率を主要評価項目とした第三相非盲検STRUCTURE試験が実施された。

12ヶ月までの大腿骨近位部骨密度の平均増加率は、Rom群で2.6%、テリパラチド群で-0.6%であった。両群間で3.2%の有意差が認められた。

結論>ビスホスホネート治療中に骨折を発症するような高骨折リスク患者に対しては、Rom治療に移行することでテリパラチドにない早期の大腿骨強度改善効果が期待できることが示された。

高骨折リスク閉経後骨粗鬆症患者でアレンドロネートの効果と比較したARCH試験

Romによる本来の治療対象となる高骨折リスク患者4093人を対象に、ALN70mg週1回経口投与との実薬対照試験として12ヶ月二重盲検試験の後、両群にALN70mgを12ヶ月以上投与するARCH試験が実施された。55-90歳の閉経後女性で、①腰椎か大腿骨近位部骨密度Tスコア≦-2.5かつ1個以上の中等度・重症椎体骨折を有するか2個以上の軽症椎体骨折を有する。②腰椎か大腿骨近位部骨密度Tスコア≦-2.0かつ2個以上の中等度・重症椎体骨折を有するか3-24か月前に大腿骨近位部骨折を発症した例を対象にした。主要評価項目は24か月までの新規椎体骨折発生率、および臨床骨折(非椎体骨折+臨床椎体骨折)が330例以上で発生しかつ全例24か月の受診完了時点での臨床骨折の発生率とし、中心的副次評価項目は腰椎と大腿骨近位部・頸部の12・24か月の骨密度、主要評価項目の解析時点での非椎体骨折発生率であった。

24か月での新規椎体骨折発生率はALN群(11.9%)に対しRom群(6.2%)で48%も抑制されており、主要評価項目評価時点での臨床骨折発生率もRom群で27%抑制されていた。またRom群では、主要評価項目評価時点での非椎体骨折の発生は19%、大腿骨近位部骨折も38%といずれも有意に抑制されていた。以上より、高骨折リスク骨粗鬆症患者に対して、Romが全部位での骨折発生をALNより強力に抑制する事が示された。

Romの投与上の注意点と安全性

逐次治療の重要性

Romの投与終了後、プラセボ投与に移行すると1年後には骨密度は腰椎で頂値の30%以下、大腿骨近位部ではほぼ投与前値にまで低下する。したがって、必ず骨吸収抑制薬による逐次治療が必要である。最も骨密度増加や骨折防止効果が強くみられるのはFRAME試験で示されたDmabによる後治療を行った場合であるが、ARCH試験でのALNや第二相試験で用いられたゾレドロン酸による後治療でも骨密度の維持効果が示された。1年間プラセボ投与した後に再度Romを投与すると初回投与時と同等の骨密度増加効果を示すが、Rom投与後にDmabの1年間投与に引き続いてRomを再投与した場合、骨密度は腰椎ではわずかに上昇したものの大腿骨近位部では維持されるにとどまり、増加はみられなかった。この効果はDmabを継続投与した場合と比較しても劣るものであり、Dmab投与後にはいったんビスホスホネートで骨吸収の亢進を抑制した上でRomを投与するのが望ましい。

虚血性心疾患及び脳卒中の発生への影響

大規模なプラセボ対照FRAME試験では重篤な心血管系有害事象の発生に全く不均衡がみられなかったにもかかわらず、ARCH試験では重篤な心血管系有害事象がRom群により多く認められた。ALNが大腿骨近位部骨折後の心血管死を減少させることが報告されていることなどを踏まえて、大規模再解析の結果、Romのベネフィットが心血管系で懸念されるリスクを上回っているとFDAパネルで結論された。しかし、虚血性心疾患や脳血管障害を有する患者に対してはRomのベネフィットとリスクを十分勘案した上で投与を検討する必要があるとの注意書きが記された。

また、過去1年以内に虚血性心疾患や脳血管障害の既往歴のある患者では投与は避けるべきであると添付文書に記載されている。

わが国では世界に先駆けてRomが「骨折の危険性の骨粗鬆症」を対象として2019年1月に承認され、3月より市販された。それからちょうど1年間を経た時点までに投与された患者の中で脳卒中や虚血性心疾患を発症した例は脳卒中63例、虚血性心疾患36例と、これまでわが国で報告された一般人口での発症率よりいずれも低い頻度であった。これは上記の添付文書の記載に従って、脳卒中や虚血性心疾患の既往歴のある患者への投与が控えられたことによるかもしれない。いずれにせよ、この報告からは心血管疾患のリスクの高い患者への投与を控える限り、本剤によるこれらの疾患の発症率の増加は避けられる可能性があると思われる。

参考文献>Matsumoto T 他:薬局,71:56-63,2020 一部改変

 

2019年3月に発売された新薬です。骨形成促進作用と骨吸収抑制作用のデュアルエフェクトを有する、新たな作用機序の治療薬として、骨強度の改善を認められています。

適応:骨折の危険性の高い骨粗鬆症

注意点:虚血性心疾患や脳血管障害のリスクが高い方への投与は慎重に検討を重ねたうえで行う。

    注射している方は、胸痛、冷汗、意識障害、片麻痺等が現れた場合には、速やかに医療機関を受診する必要がある。

 

一般名

薬価(1月あたり)

用量

作用機序

主な副作用

骨形成促進・骨吸収抑制薬

ロモソズマブ

(イベニティ)

24720円

1か月毎に12ヶ月間、60mg皮下注

骨芽細胞を活性化させ、破骨細胞の活性を抑制する。

・低Ca血症

・顎骨壊死・顎骨骨髄炎

・大腿骨転子下、大腿骨骨幹部の非定型骨折

・関節痛

・注射部位疼痛、紅斑

・鼻咽頭炎

・虚血性心疾患や脳血管障害

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