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選択的エストロゲン受容体モジュレーター SERM(サーム)製剤

第一のSERM:RLX(エビスタ?)

RLXに関する最初の主要な報告は欧州からもたらされ、RLXが腰椎と大腿骨頸部の骨密度を上昇させるだけでなく、血清中の総コレステロール(TC)とLDL-Cを低下させることが明らかになった。その後、7700人を超える骨粗鬆症女性が参加した大規模臨床研究であるMultiple Outcomes of Raloxifene Evaluation(MORE)によって、3年間にわたりRLXを投与された女性の椎体骨折が有意に抑制されることが示された(既存骨折のない女性では1日60mgでRR=0.5)。ただし、非椎体骨折は抑制されず、また3年間の腰椎骨密度の増加率は約3%であった(骨密度を維持する程度の効果しかない印象)。

骨密度増加率がアレンドロネート(ALN)に比較して低いことはEFFECT研究やEVA研究などの直接比較試験でも示されており、いずれの部位でもALNの約1/2である。

それにもかかわらず椎体骨折抑制率がALNと遜色ないことから、RLXの椎体骨折抑制への骨密度増加の寄与率は他剤に比べても低く、4%程度と推定されている。

非椎体骨折については、その後のMORE研究のpost hoc解析により、重度の既存椎体骨折を有する女性ではRLXにより有意に抑制されることが明らかにされている(60mg RR=0.53)。また、実臨床での服用薬剤ごとの非椎体骨折発生率を比較したコホート研究では、RLXとALNとの間に差が無いことが示されている。さらに、MORE研究のpost hoc解析により、骨粗鬆症の診断基準に合致しない骨量減少域の女性でもRLXが椎体骨折を有意に抑制することが示されているが(60mg、RR=0.53)、ALNにはこのような効果がないことが知られている。

RLX投与による骨代謝マーカー変化は軽度で、例えばゾレンドロン酸5mgとの直接比較では、I型コラーゲン架橋Nーテロペプチド(NTX)や骨型アルカリフォスファターゼの変化はゾレンドロン酸に比較して有意に小さかった。しかしこのことは、過度の骨代謝回転抑制による顎骨壊死や大腿骨非定型骨折に関する最近の懸念の高まりを考慮すると、むしろ好ましい特徴とも考えられる。

骨に対する作用とは別に、MORE研究のpost hoc解析によって、RLXが心血管疾患のハイリスク群においてイベント発生を抑制する事、また乳がんの発生を約1/3に低下させることが明らかになった。MORE研究でも血清中のTC、LDL-Cは低下したが、中性脂肪(TG)は上昇した。RLXの副作用としてはホットフラッシュ、こむら返りのほか、深部静脈血栓症(DVT)の増加が示された。ただし、アジア地域でのRCTではDVTのリスク全く増加しておらず、基礎的な血栓症のリスクは全く増加しておらず、基礎的な血栓症のリスクは全く増加しておらず、基礎的な血栓症リスクの人種・生活習慣による差異によるものと推測されている。

閉経後女性への閉経期ホルモン療法(Menopausal Hormone Therapy:MHT)とRLXの効果を冠血管疾患、脳卒中、肺塞栓症、乳癌、子宮内膜癌、大腸癌、大腿骨近位部骨折、脂肪のリスク増減を総合したGlobal Indexで評価すると、WHI研究ではエストロゲン・プロゲステロン合剤では1.15と有意に上昇、エストロゲン合剤では1.01と不変だったのに比べてMORE研究のRLX60mgでは0.75と有意に低下する事が示された。

すなわち、RLXのもつ骨折抑制を含む多面的作用により、閉経後女性の疾患リスクが総合的に低下する事が明らかになった。この点をさらに敷衍する試みの中で、心血管リスクを有する女性に対してRLXを投与したRUTH試験では、60歳未満の女性で心血管リスクの有意な減少が、また乳癌リスクを有する女性に対してRLXとTAMの効果を比較したSTAR試験では、血栓塞栓症や子宮内膜増殖症などの副作用の有意な低下が、それぞれ示されている。

第二のSERM:BZA(ビビアント?)

BZAに関する最も基本的なデータは、6800人を超える骨粗鬆症女性が参加して行われた国際的第Ⅲ相試験により得られた。BZA20mg、同40mg、RLX60mg、またはプラセボのいずれかを3年間投与して比較したこのRCTでは、BZAによる椎体骨折の発生抑制効果(BZA20mgでHR=0.58)及びハイリスク群における非椎体骨折抑制効果(BZA20mgでHR=0.50)が示された。

特に後者の非椎体骨折に関しては、並行群であるRLX60mg群では抑制効果が示されていない点に注意が必要である。わが国で行われた第Ⅱ相試験では、BZA20mgの2年間投与で骨密度は腰椎では2.4%、大腿骨頸部で1.7%増加する事、またTCとLDL-Cが低下する事がそれぞれ示されている。

その後、BZAとRLXとを比較するいくつかの研究が行われ、BZAではRLXと比較し0て骨折リスクが高いほど椎体骨折抑制効果が高いこと、骨折リスクが高いグループにおいてはBZAの費用対効果がRLXと比較して高いことなどが示されている。

おわりに

ER作動薬であるSERMには椎体骨折抑制、ハイリスク群における非椎体骨折抑制などの効能に加えて、心血管疾患や乳癌の発症をも抑制する効果があり、エストロゲン欠乏によってさまざまな疾患リスクにさらされる閉経後女性の健康に総合的に寄与する可能性がある。骨密度増加や骨代謝マーカーの変化は相対的に小さいが、一方で椎体骨折抑制効果には遜色なく、また骨代謝回転を過度に抑制しないために長期にわたる服薬も可能である。閉経後比較的早期の投与に適する薬剤と考えられる。今後はさらにエストロゲンとSERMとの組み合わせなど、様々な展開が期待されている。

参考文献>寺内公一 他:薬局,71:29-34,2020 一部改変

一般名

薬価(1月あたり)

用量

作用機序

主な副作用

ラロキシフェン

(エビスタ)

98.7円/60mg(2961円)

1錠×1回/日

骨のエストロゲン(以下、E)受容体に作用し、E様の骨吸収抑制作用を示す。

乳腺・子宮のE受容体にアンタゴニストとして作用。悪性腫瘍のリスクを低下させる

 

・血栓症

・腹部膨満

・悪心

・乳房緊満

・皮膚炎 

・下肢痙攣

・体重増加

 

バセドキシフェン

(ビビアント)

100.8円/20mg(3024円)

1錠×1回/日

補足:エストロゲン低下を補う薬であり、閉経後骨粗鬆症の第一選択薬である。

参考文献:薬がみえる MEDICMEDIA 一部改変、総合診療Gノート vol.4-No.1 2017

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