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甲状腺機能検査とその読み方

  • 甲状腺機能評価するためには、甲状腺ホルモンと同時に甲状腺刺激ホルモン(T S H)の測定が必要である。
  • 甲状腺機能異常には、甲状腺ホルモン値とTSH値を見て総合的に判断する。
  • ワンポイントの甲状腺機能検査では診断できないこともある。
  • 自己免疫性甲状腺疾患の診断に抗サイログロブリン抗体(TgAb)、 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)、抗TSH受容体抗体(TRAb)を用いる。

 

甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)

甲状腺ホルモンは、甲状腺ホルモンを結合タンパク質(thyroid binding protein ; TBP)と大部分が結合しており、 細胞内に取り込まれ作用を発揮するのは、TPPと結合していない有利型のFT 4とFT3である。

そのため、甲状腺機能評価する場合には、FT 4、FT3と、下垂体から分泌され甲状腺ホルモンの調節を行っているTSHの測定を行う。現在測定されている高感度のTSHは、甲状腺ホルモン値により極めて鋭敏に変化するため、甲状腺ホルモン値が正常でTSHのみ異常値を示すことがある。その状態を潜在性甲状腺機能異常症と言う。したがって、甲状腺機能上を疑って検査する場合、TS Hが最も良い指標となる。

実際の診療では、保険診療上このうちの2項目の測定しかできない場合が多く、甲状腺から主に分泌されるF T4とTS Hを測定する。ただし、甲状腺機能低下症においては、この2項目で判断できることが多いが、甲状腺機能亢進症の診断については、FT4のみでは判断できないことがあるため、FT 3を加えた3項目の測定が望ましい。また、甲状腺腫の大きいバセドウ病、 慢性甲状腺炎(橋本病)、濾胞がんの一部はT4からT3の変換が亢進しているため、FT 4に比してFT 3が高値となり、測定上FT4はむしろ基準値より低下していることもある。このような場合はFT3を測定し評価する必要がある。

測定上の注意点として、甲状腺ホルモンは食事や日内変動の影響はほとんどないとされるが、TSHは日中に比べ夜間は高値となる傾向があるとされる。また、測定キットによる測定基準値が異なること、年齢や妊娠による基準範囲が異なることに留意する。

検査結果の解釈

甲状腺機能異常を判定する上では、ホルモンのネガティブフィードバックを理解する必要がある。一般的には、甲状腺ホルモンが高値になった場合には、TS Hが低値、甲状腺ホルモンが低値となった場合にはTSHが高値となるが、典型的なパターンとならない場合もあるため、検査値と臨床経過を総合的に見て判断する。(表1)

  • FT4、FT3が高値
  • ①TSHが低値

いわゆる甲状腺中毒症である。甲状腺ホルモンを過剰に産生する病態(原発性甲状腺機能亢進症)であるバセドウ病や自律性機能性甲状腺結節(プランマー病)、妊娠初期や絨毛性疾患で、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin;hCG)が上昇した場合、甲状腺が破壊される病態である。無痛性甲状腺や亜急性甲状腺炎、急性化膿性甲状腺炎、甲状腺ホルモンの過剰投与などによる外因性の甲状腺ホルモンが増加した病態などを考える。

これらの鑑別のためには、後述する抗甲状腺自己抗体の測定、頸部超音波検査による甲状腺結節性病変の有無や甲状腺血流の計測、放射線検査による甲状腺ヨウ素摂取率を用いる。

  • TSH 基準範囲内〜高値

ネガティブフィードバックが働いていない状態で、TSH不適切分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion of thyrotropin ; SITSH) ともいわれる。TS Hが自律性に分泌されているTSH産生下垂体腫瘍か、甲状腺ホルモン受容体の変異による甲状腺ホルモン不能症を考える。 鑑別には、下垂体MRI検査などの画像検査、TSH放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone ;TRH)負荷試験を行い、甲状腺ホルモン不能症を疑う場合には、遺伝子解析が必要になる。

 

  • FT4,FT3が低値
TSH高値

原発性甲状腺機能低下症を考える。FT4は低値でもF T3は正常であることもある。最も多い疾患が慢性甲状腺炎である。典型的な場合は永続性機能低下であることが多いが、無痛性  甲状腺炎の回復期にも同様のパターンになることがあるため、一過性の変化か経過観察を必要とする場合がある。

② TSH低値から基準範囲内

甲状腺ホルモンが低値にもかかわらず、TS Hが上昇していない場合である。この場合、下垂体あるいは視床下部による中枢性甲状腺機能低下症や、消耗性疾患である悪性腫瘍や感染症、るいそうなどの低栄養状態による非甲状腺疾患を考える。中枢性甲状腺機能低下症の場合は、TSH以外の下垂体ホルモン低下の合併も考慮する。

下垂体性の場合は、TRH負荷試験によるTSHの反応が低下するが、視床下部性の場合はTSHが基準範囲内からやや高めになることもあるため注意する。非甲状腺疾患の場合は、FT 3のみ低下するようないわゆるlow T3症候群の状態であることが多いが、病態が進行するとFT4の低下も見られる。

  • FT 4、FT 3が基準範囲内
    • TSH高値

潜在性甲状腺機能低下症の病態である。甲状腺ホルモンによる補充療法を行うかは、年齢やTSH値によって判断する。まれに甲状腺ホルモン不能症であることもある。

  • TSH低値

潜在性甲状腺機能亢進症の病態である。2〜4週間ほど期間を空けて再検し、TSH低値が続く場合は甲状腺中毒症の鑑別を行う。

 

甲状腺機能検査の注意点

一般的なパターンをとらない場合は、破壊性甲状腺炎などによる甲状腺機能の一過性変動の経過をみている可能性や、アッセイ系に影響及ぼす因子や測定キットの問題などが想定される。一過性変動の場合は、TSHは甲状腺機能の変動で鋭敏に反応する一方、甲状腺ホルモンに比して基準範囲内に復するのが遅れるため、甲状腺機能異常の自然経過や治癒過程においては、一点の甲状腺機能検査のみでの判断ができないことがある。(図1)

 

 

 

 

 

 

 

ビオチンなどアッセイ系に影響及ぼす因子や測定系に干渉する生体内で生じる抗体の影響では、見かけ上SITS Hとなる。1step法で行っている検査キットの場合はより干渉の受けにくい2step法で再検を行う。またレボチロキシン(LT4)内服下ではFT4のみ高値となることがある。SITSHの場合、まずは健康食品摂取や内服薬を確認し、干渉するものがなければ、2〜4週間あけて、甲状腺機能再検により再現性を評価、または検査方法の確認などを行う必要がある。(図2)

抗サイログロブリン抗体(TgAb)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)

甲状腺の濾胞上皮細胞で合成されるTgに対する抗体と、甲状腺ホルモン合成を触媒する酵素であるTPOに対する抗体である。

(1)測定法

測定法には、間接凝集反応法であるサイロイドテスト(TGPA)、マイクロゾームテスト(MCPA)とFEIA法、ECLIA法、CLIA法などイムノアッセイによる高感度測定法(TgAb、TPOAb)がある。全自動化測定により約30分で定量判定可能となったこともあり、後者が広く用いられているが 間接凝集反応法に比してコストが高く、測定キットにより基準値が異なるため、注意が必要である。

感度については、TG PAはTgAbに比べ低いが、MCPAはTPOAbに比べやや低い程度である。


(2) 検査の意義と解釈

びまん性甲状腺腫がある、甲状腺機能低下症を疑う所見がみられるなど、慢性甲状腺炎を疑う場合に検査を行う。甲状腺疾患診断ガイドラインでは、TgAbまたは抗甲状腺マイクロゾーム(またはTPO)抗体陽性で慢性甲状腺炎の疑いとなる。日本において高感度測定法での慢性甲状腺炎の陽性率は TgAbがTPOAbに比べ高い。したがって、保険診療上、どちらか一方しか測定できない場合は、TgAbを、同時にTPOに対する抗体を評価したい場合は、MC PAを測定することがある。

TgAb、あるいはTPOAbの抗体価と甲状腺機能に相関はないとされるが、抗体価が非常に高い場合、特にTPOAbが高い場合は永続性甲状腺機能低下なることが多い。

これらの抗体は、バセドウ病や無痛性甲状腺炎においても高率に陽性となる。バセドウ病ではTgAbとTPOAbの陽性率はあまり変わりないが、無痛性甲状腺炎では慢性甲状腺炎と同様にTgAbがTPOAbよりも陽性率が高い。また、亜急性甲状腺炎でもこれらの抗体は一過性に陽性となることがある。

その他検査を行う場合として、甲状腺機能異常を来す可能性のある薬剤を用いるときには、これらの抗体が陽性であると機能異常を来しやすいため、治療前に抗体測定が望ましいとの報告がある。また、高分化型甲状腺がん術後の経過観察の指標としてTgを用いるが、TgAbが陽性の場合はTgが見かけ上低値となるため、TgAbの評価が定期的に必要となる。

抗TSHレセプター抗体(TRAb)

TSH受容体とは、甲状腺濾胞上皮細胞側底膜にあり、TSHが結合して甲状腺ホルモンを産生する役割をしている。抗TSH受容体抗体(TSH recepter antibody:TRAb)とは、このTSH受容体に対する自己抗体であり、刺激型と阻害型、及び不活性型の3種類があるといわれている (図3)。甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモンの産生分泌を促す場合には、甲状腺機能亢進となり、この刺激型抗体は甲状腺刺激抗体(TSAb:thyroid stimulating antibody) とよばれる。甲状腺刺激を阻害し甲状腺ホルモン産生を抑制する場合には甲状腺機能低下となり、阻害型抗体をTSBAb(thyroid stimulating blocking antibody)という。TSBAbは保険収載されていない。

 

 

 

 

 

 

 

測定法

① TRAb

TRABはTSHと受容体との結合を阻止しており、この阻害の程度を測定したことから、TSA結合阻害免疫グロブリン(TSH-binding immunoglobulin;TBII)といわれていた。TRAbには第一世代から第三世代まであり、第一、第二世代はTSHとTSH受容体との結合阻害活性で測定していたが、第三世代は抗TSH受容体モノクローナル抗体(M22)との結合阻害活性を測定している。そのため、第3世代では全自動での測定が可能となっており、およそ30分以内に検査実施できるようになった。TRAbは結合阻害を評価しているものであり、甲状腺細胞を刺激して甲状腺ホルモン産生を行っているかの判断はできない。

  • TSAb

TRAbによって豚甲状腺細胞を刺激し、 その活性によるcAMP産生能を測定して評価する、バイオアッセイ法を用いた刺激抗体である。以前は血清TS H濃度により影響受けていたが、近年改良された測定法では測定時間も測定感度も向上した。また、血清TS H濃度も300μIU/mL程度までは影響しない。

(2) 検査の意義と解釈

甲状腺中毒症を疑う場合、バセドウ病とそれ以外の甲状腺中毒症の鑑別のために測定する。甲状腺疾患診断ガイドラインでは、バセドウ病の診断基準の1つに抗TS H受容体抗体(TRAb、TBII)、または刺激抗体(TSAb)陽性がある。第3世代のTRAb、改良後のTSAbでの未治療、バセドウ病陽性率は感度、特異度ともに95%以上と非常に高い。測定時間の速さからTRAbを用いた診断が主流となっているが、TRAb陰性のバセドウ病では、TSAbのみ陽性となることもしばしば見られる。ただし、保険診療上、同月ではどちらか一方のみの算定しか認められない。その他の甲状腺中毒症である無痛性甲状腺炎などでも偽陽性となることがある。そのため、甲状腺中毒症でTRAb陰性、もしくは陽性でも抗体価が低値の場合は放射線ヨウ素摂取率検査を行い診断する。

診断時以外では、バセドウ病治療経過の状態や寛解の判定にもTRAbを測定する。TRAbが低い方がより再燃しにくいとの報告がある。その他、バセドウ病合併妊婦は胎児・新生児バセドウ病のリスク評価のため、妊娠中にTRAbを測定する。稀に 甲状腺腫のない甲状腺機能低下の場合、TRAbが強陽性(この場合TSAbが陽性)となることがある。この状態で妊娠すると、胎児甲状腺腫大や新生児甲状腺機能低下となることがあるため注意が必要である。

TRAbとTSAbは相関せず乖離することもあり、特に甲状腺眼症の場合はTRAbよりも刺激活性をみるTSAbが重症度や活動性とより相関するといわれている。バセドウ病妊婦や甲状腺眼症の合併例ではTSAbのみ高値となることがあるため注意する。

参考文献>西嶋由衣:月刊薬事,62(13):24-28,2020 一部改変

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