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HPVワクチンについて

ポイント>

・ヒトパピローマウィルスの中で、HPV 16、18型に代表されるハイリスクHPVは上皮細胞に持続感染することにより感染細胞から癌細胞へと変化することがある。特に女性の子宮頸部は癌化しやすいため子宮頸癌は若年発症、かつ発生数が圧倒的に多い。

・HPV6、11型は尖圭コンジローマの原因の1つである。これらのHPV感染の感染制御には、HPVワクチンが有効であることが証明されている。

・HPVワクチンは感染予防ワクチンであり、重症化予防や治療効果はないことから既感染者へのワクチン接種は推奨されていない。

HPV感染の疫学と自然史

子宮頸部にHPVが感染すると、そのうちの一部は持続感染となる。一方、約60%がHPV抗体を獲得し、その抗HPV抗体や細胞性免疫によって感染制御する。その結果約90%が2年以内にHPV検査が陰性化する。このHPV検査陰性の意味は、HPVが完全に消えたとは限らない。潜伏状態(latent infection)とも考えられる。遺伝子配列が同じHPVが一度陰性になっていた子宮頸部から検出されることは10%前後でみられている。このようになる理由は、宿主の免疫によってHPVのウィルスDNAが検出感度以下になって陰性(偽陰性)となり、これが時間と共に再度検出感度を超えるウィルス量になる現象であるとされている。

これらの抗体陽性者とHPV検査陽性者を計算すると全女性の5-8割は一生に一度はHPVに感染していることになる。年齢別の日本人女性におけるHPV-DNA検査の陽性率は10代が最も高率で30ー40%にも及ぶ。20代で20ー30%、30代で10ー20%、40代で5ー10%と年齢と共にDNA陽性率は見かけ上、減少する。

子宮頸癌におけるHPVの遺伝子型別の分布は、HPV16型が約半数を占め、2番目に多いHPV18型は10%程度である。子宮頸癌全体の約70%はHPV16、18型によるものである。日本のデータでは、子宮頸部細胞診正常におけるHPV16、18型の検出頻度は10%強であり、むしろHPV52、58型の方が優位である。

HPV関連疾患とHPVタイプ

子宮頸癌

日本ではHPV16、18型による20代、30代の子宮頸癌が増加している。20代の子宮頸癌ではHPV16、18型の頻度が90%を超える。さらに日本では、女性の約83人に1人が子宮頸癌を発症すると推定され、しかも2000年以降、日本の子宮頸癌罹患率は増加の一途を辿っている。がん検診受診率が低いので、発見された状態で既に進行がんの場合も多く、年齢調整死亡率も増加し続けている。

尖圭コンジローマと母子感染

尖圭コンジローマは、女性では10代、20代に罹患のピークがある。妊娠中に尖圭コンジローマを合併すると産道感染による母子感染症が発症することがある。若年生再発生呼吸器乳頭腫症を発症することがある。

HPVワクチンの現状

HPVワクチンは、世界100カ国以上で定期接種化されている。ほぼ全ての先進国はもちろん、アフリカ、東南アジアの開発途上国でもHPVワクチンが定期接種となっており、先進国はもとより開発途上国でもHPVワクチンの接種率が50〜100%となっている。

国内では、2価HPVワクチン(サーバリックス)、4価HPVワクチン(ガーダシル)が使用できるが、海外では世界80カ国以上で9価HPVワクチンが承認され、定期接種ワクチンとして用いる国が多くなってきた。9価ワクチンは、16/18/6/11型と31/33/45/52/58型の感染を予防でき、子宮頸癌のほぼ90%は予防可能と言われている。世界保健機関(WHO)、米国疾病予防管理センター(center for disease control and prevention:CDC)、米国癌治療学会では、9価HPVワクチンを定期接種ワクチンとして推奨している。日本でも2021年2月24日から9価HPVワクチン(シルガード9)が発売された。

HPVワクチンのがんの予防効果

HPVワクチン接種がフィンランドで開始された2007年当時に14〜19歳の出生コホートを7年間追跡された2007年当時に14〜19歳の出生コホートを7年間追跡したところ、HPVに関連する子宮頸癌、外陰癌、咽頭癌の発生がHPV接種群では1例もいなかったのに対して、非接種群では一定数認められた。

スウェーデンのデータでは、HPVワクチンの定期接種を学童女児のうちに受けていれば、10万人当たり1年間での子宮頸癌発生数は、0.1人であることを示している(未接種の場合は5.27人)。

デンマークの研究ではHPVワクチン非接種者を1とした場合、16歳までに接種した女性では子宮頸癌の発生リスクが0.13であり17ー19歳で接種した場合でも0.29であり、子宮頸癌減少効果を認めたが、20ー30歳での接種者では1.15で減少効果はみられなかった。やはり、性交経験者の世代に接種することが確実な子宮頸癌予防になる。

HPVワクチンの感染予防効果の持続期間

ワクチン接種後から14年前後は効果があるとされている。14年(追跡期間中央値11.9年)経っても、HPV16、18型に起因する高度子宮頸部上皮腫瘍は発症していないことが示された。そうなると、子宮頸癌の前がん病変の罹患年齢ピークを超えているので効果があるとしてよい。

参考文献:川名敬:medicina,59:549-552,2022 

 

 

 

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