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抗RANKL抗体製剤

はじめに

デノスマブ(Dmab、プラリア?)は、当院の骨粗鬆症治療において最も選択されている主要薬剤である。通院患者の約8割の方がDmabで治療中である。

Dmabのメリット>

・半年に1回の皮下注射が簡便であるのに加え10年にわたり腰椎及び大腿骨の骨密度をほぼ直線的に増加させる。

・明らかな椎体骨折、非椎体骨折、大腿骨近位部骨折防止効果が示されている。

・年齢や骨密度、骨折の既往の有無など骨折リスクの程度に関わらずDmabは椎体骨折防止効果を示す。

副作用は比較的少なく、投与中断された方は現時点では約80人中1名のみである。デメリットはあえて言えば、ビスホスホネート製剤の後発品に比して価格が高いことである。

作用機序

Dmabは破骨細胞の分化、成熟、生存に最も重要な役割を担っている破骨細胞分化因子(recepter activator of nuclear factor-κB ligand:RANKL)に対する完全ヒト型モノクローナル抗体IgG2抗体である。RANKLとその受容体であるRANKの結合を阻害することにより、骨吸収を著明に抑制する。

RANKは破骨細胞の分化過程において単核の前駆細胞の時期から発現している。そのリガンドであるRANKLは骨芽細胞、骨髄間質細胞、骨細胞に発現する。RANKLはRANKに作用し、破骨細胞の分化、活性化、生存を促進する。一方、骨芽細胞を含む間葉系細胞からはosteoprotegerin(OPG)も分泌される。そしてOPGはRANKLにデコイ受容体として結合することにより、RANKへの結合を競合的に競合的に阻害しRANK作用を抑制する。したがって、RANKL作用はRANKLとOPGの相対発現量により規定される。一方、抗RANKL抗体のDmabは、高い親和性と特異性でRANKLに結合し、RANKL活性を阻害することにより、骨吸収を著明に抑制する。

第三相臨床試験

海外第三相骨折評価臨床試験FREEDOM(Fracture REduction Evaluation of Denosmab in Osteoporosis every 6Months)は、閉経後骨粗鬆症患者を対象に3年間実施された。プラセボ群に比し、Dmab60mg6か月に1回投与群では主要評価項目の新規椎体骨折のRRを68%低下させた。

この骨折防止効果は投与開始後1年で有意であった。さらに臨床椎体(69%)、非椎体(20%)および大腿骨近位部骨折(40%)のRRの減少も有意であり、それぞれ低下させた。

骨密度については、36か月後腰椎で9.2%、大腿骨近位部で6.0%と著明な増加効果を認めた。特筆すべきは皮質骨に対する有効性で、橈骨遠位1/3に対しても有意な増加効果を示す。

Hugh-resolution peripheral quantitative computed tomography(HR-pQCT)による検討では、皮質骨幅の増加や皮質骨多孔性の低下が報告されている。また、Dmabの骨密度増加率の骨折への寄与度は極めて高く、大腿骨近位部が最も良好で1年間の骨密度増加率は椎体骨折防止効果の23%、非椎体骨折の35%に寄与するとされる。

FREEDOM試験のpost hoc解析では、年齢、BMI、腎機能、人種、骨粗鬆症薬の副薬歴、骨密度、骨折の既往など9つのサブグループのすべてでDmabの椎体骨折防止効果が示されたことから、骨折リスクの程度に関わらずDmabの椎体骨折の防止効果が期待できると考えられる。Dmabの骨折防止効果はメタ分析でも、椎体、非椎体および全骨粗鬆症骨折で示されている。

Dmabが骨粗鬆症治療薬としてわが国で認可される礎となった国内第Ⅲ相骨折評価臨床試験DIRECT(Denosmab fracture Intervention RandomizEd placebo Controlled Trial)では、原発性骨粗鬆症患者を対象とし2年間の二重盲検ランダム化比較試験と、その後1年間の非盲検下でび延長試験が実施された。主要評価項目である24か月後の脆弱性椎体骨折は、プラセボ群に比して65.7%と有意な骨折防止効果を認めた。さらに延長試験において、3年間を通じて脆弱性椎体骨折防止効果を認め、欧米人と同等の効果が得られることが示された。

以上の結果を踏まえ、『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版』の薬剤の有効性の評価において、Dmabは骨密度増加効果、椎体、非椎体および大腿骨近位部骨折防止効果のいずれもA評価になっている。

長期投与成績 

FREEDOM終了後の延長試験においてDmab継続投与群では、著明な骨密度増加効果を示し、10年にわたり骨密度をほぼ直線的に増加させ、腰椎骨密度効の増加は累積的で21.7%、大腿骨近位部で9.2%に及んだ。骨密度増加効果持続の要因の1つとして、モデリングベースの骨形成をDmabは抑制しない可能性が示唆されている。

骨折リスクについては、椎体および非椎体とも骨折防止効果は維持されていた。さらに非椎体骨折発生率について、治療開始後1-3年間の100人・年あたりの骨折率とその後の骨折率が比較検討されており、4年目以降の非椎体骨折発生率は、1-3年間の骨折発生率よりも優位に低値を示した。非椎体骨折防止効果は長期投与でより発揮されるようである。

デノスマブ投与中止後の成績

閉経後骨量減少例を対象としてDmab、あるいはプラセボを24か月間投与した海外第Ⅲ相骨密度試験の終了後、治験薬投与を24か月間中止してカルシウムとビタミンDのみにて観察した延長試験が行われた。その結果、Dmab中止群の骨密度は24か月間減少したが、プラセボ中止群の骨密度よりも有意に高値であった。

Dmab中止後、骨吸収マーカーの上昇が先行し、これに伴い骨密度は低下を認めている。骨代謝回転に対するDmabの効果は可逆性であり、骨生検による骨組織学的評価でも、Dmab中止後はプラセボと類似した正常の骨組織となることが示されている。中止後の骨折発生率はプラセボと差がないとされるが、中止後短期間で多発骨折を生じた例や、高カルシウム血症をきたした例の報告がある。Dmab投与後はビスホスホネートなどの骨吸収抑制薬による逐次療法を要する。

続発性骨粗鬆症に対する効果

ステロイド骨粗鬆症へのDmab投与において、リセドロネートを対照とした非劣性試験が実施されており、一次予防、二次予防共に優れた骨密度増加効果が報告されている。主要評価項目ではないが、24か月後の骨折発生率についても非劣性が示されている。骨密度についてはメタ分析にても有意な増加効果が示されている。

『ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン:2014年改訂版』が今後改訂された場合は、Dmabは重要な薬剤の一つとして組み入れられると考えられる。

一方、2型糖尿病に伴う骨粗鬆症患者への効果については、FREEDOM試験/延長試験の10年間のサブ解析において、非糖尿病群と同等の骨密度増加効果、椎体骨折防止効果が報告された。しかし、非椎体骨折に対する効果は今後の課題である。

腎機能障害患者に対する影響

eGFRが80を超える腎機能正常、50-80の軽度、30-49の中程度、30未満の重度の腎機能相障害、透析が必要な末期腎不全患者にDmab60mg単回投与後4か月間のDmabの薬物動態、薬力学データ及び安全性が検討され、腎機能障害の程度はDmabの薬物動態および薬力学に影響を及ぼさないことが示された。症候性低Ca血症の発症はいずれも重度の腎機能障害患者であった。大規模試験のサブ解析より、CKDステージG3においても有効性と安全性には概ね問題はないとされる。ただし、腎機能低下例では低Ca血症の発生頻度が高く、天然型ではなく活性型ビタミンD3の補充と厳重な経過観察が推奨されている。                                                                         

安全性

FREEDOM試験をはじめとする臨床試験において重症感染症や悪性腫瘍の発生などに有意な増加はなく、安全性プロファイルに特に問題ないことが報告されている。一方では重篤な副作用と重症感染症の発生の増加が有意であるとのメタ分析の結果の報告もあり、免疫機能などの観点から今後も慎重な安全性の評価を続けていく必要がある。

Dmabは蓄積性が無く、作用は可逆的であることが示されているが、骨吸収の抑制作用はBP製剤より強力であることは明白である。よって、BP製剤の長期使用で懸念される骨代謝回転の過度の抑制による骨質の劣化や非定型骨折、顎骨壊死の発生にも留意が必要である。また、Dmab投与期間中は口腔内衛生の管理が必須である。また、初回投与1週間後にはCaの確認が望まれる。

 

参考文献>山内美香 他:薬局,71:42-47,2020 一部改変

一般名

薬価(1月あたり)

用量

作用機序

主な副作用

デノスマブ

(プラリア)

28788円/シリンジ60mg(4798円)

6か月毎に60mg皮下注

RANKLを阻害し破骨細胞の成熟を抑制する。

・低Ca血症

・顎骨壊死、顎骨骨髄炎

・高血圧

・肝機能障害

補足:低Ca血症を予防するため、ビタミンDやカルシウム製剤を併用する。

主な禁忌:低Ca血症、妊婦

参考文献:薬がみえる MEDICMEDIA 一部改変、総合診療Gノート vol.4-No.1 2017

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