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亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎とは

亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎

亜急性甲状腺炎は、臨床所見として有痛性甲状腺腫を認め、甲状腺中毒症を示し、TRAbあるいはTSAb陰性、CRP陽性、疼痛部に一致した低エコー領域を認める疾患である。

一方、無痛性甲状腺炎の診断には、放射線ヨウ素摂取率とシンチグラフィが必要だがどこでもできる検査ではない。一般的には、頚部痛や発熱がない甲状腺中毒症でTRAbあるいはTSAb陰性かつ頚部エコー検査で甲状腺過機能結節が除外されれば、無痛性甲状腺炎の可能性が高いと判断する。

項目

亜急性甲状腺炎

無痛性甲状腺炎

主な原因

ウィルス感染後の炎症(らしい。証明はされてない)

橋本病、分娩後、薬剤(インターフェロン、アミオダロンなど)

発熱・頭痛

あり

なし

甲状腺痛

あり

なし

典型的な症状

上気道感染後の片側性前頚部痛、発熱、多汗、頻脈、動悸、手指振戦

甲状腺中毒症状があるが、甲状腺に疼痛、圧痛、発熱なし。

TRAb/TSAb

陰性

陰性

CRP・赤沈

著明に上昇

正常〜軽度上昇

エコー所見

低エコー領域

甲状腺過機能結節を除外

炎症の程度

強い

軽度

治療

NSAIDs、ステロイド

自然治癒が多いが、症状に応じて治療

 

 

どの様な状況でこの疾患を疑うか?

 

◼️亜急性甲状腺炎

・上気道感染の先行後に片側性の前頚部の痛みが出現するのが典型例。加えて、発熱、多汗、頻脈、動悸、手指振戦などの甲状腺中毒症状を呈する。

 

・頚部から下顎部、耳、側頭部、後頭部への放散痛を呈する場合がある。

・甲状腺内に炎症性肉芽種が形成されます。

・原因としてウィルス感染の関与が考えられますが、証明されていない。

・中年女性に多い。男女比は約1:5〜8です。

  • 無痛性甲状腺炎

・甲状腺中毒症状を呈しているが、甲状腺に疼痛、圧痛、発熱を認めない。そこが亜急性甲状腺炎と異なる。

 

・女性で頻度が高く、分娩後の発症も多い。インターフェロンなどの免疫調整、薬やアミオダロンなどの薬剤が誘因となり発症することもある。

 

この疾患を疑ったら、最初に行うべきこと

 

身体診察

甲状腺腫大、圧痛、頻脈および、不整脈の有無を確認する。

 

採血

末血、WBCの血液像、CRP、肝機能、甲状腺機能、TRAb、Tg、抗Tg Ab、抗TPO抗体

 

エコー

疼痛部に一致する低エコー域を認める(甲状腺の炎症を示す)。

 

心電図、胸部Xp

頻脈、Af、心不全の有無を確認する。

 

 

診断のポイント

 

亜急性甲状腺炎

一番の特徴は、甲状腺の圧痛である。痛みは3日でピークに達し、約1週間後に消退する。

頸部痛はしばしば甲状腺内を移動し、片葉から始まり、両葉に広がることもある。これをクリーピング現象という。

 

無痛性甲状腺炎

無痛性甲状腺炎の80%の症例において、甲状腺自己抗体が陽性である。よって、甲状腺疾患の既往を必ず確認する。

誘因:IFNや免疫チェックポイント阻害薬、アミオダロン、Tk阻害薬、リチウム製剤や出産

そのため、既往歴、妊娠、出産の有無、薬歴等の問診がポイントである。

 

亜急性甲状腺炎

  1. 臨床所見:有痛性甲状腺腫
  2. 検査所見:
    • CRPまたは赤沈高値
    • fT4高値、TSH低値(1μU/mL以下)
    • エコーで疼痛部に一致した低エコー域
  • 亜急性甲状腺炎
  1. とb)の全てを有するもの
  • a)とb)の1と2

 

除外規定>橋本病の急性増悪、嚢胞への出血、急性化膿性甲状腺炎、未分化癌

 

付記>

  • 回復期に甲状腺機能低下症になる例も多く、少数例は永続的低下となる。
  • 上気道感染症状の前駆症状をしばしば伴い、高熱をみることも稀ではない。
  • 甲状腺の疼痛はしばしば反対側にも移動する。
  • 抗甲状腺自己抗体は高感度法で測定すると、未治療時から陽性になることもある。
  • 細胞診で多核巨細胞を認めるが、腫瘍細胞や橋本病に特異的な所見を認めない。
  • 急性期は放射性ヨウ素(またはテクネシウム)甲状腺摂取率の低下を認める。

 

無痛性甲状腺炎の診断ガイドライン

 

  1. 臨床所見
    • 甲状腺痛を伴わない甲状腺中毒症
    • 甲状腺中毒症の自然改善(通常約3ヶ月以内)
  2. 検査所見
    • fT4高値(さらにfT3高値)
    • TSH低値(1μU/mL以下)
    • 抗TSH受容体抗体陰性
    • 放射性ヨウ素(またはテクネシウム)甲状腺摂取率低値

 

  • 無痛性甲状腺炎

a)、b)の全てを有するケース

 

2)無痛性甲状腺炎の疑い

a)の全てとb)の①〜③を有するケース

 

除外規定

 甲状腺ホルモンの過剰摂取例を除く。

 

【付記】

  • 慢性甲状腺炎(橋本病)や寛解バセドウ病の経過中発症するものである。
  • 出産後数ヶ月でしばしば発症する。
  • 甲状腺中毒症状は軽度の場合が多い。
  • 回復期に甲状腺機能低下症になる例も多く、少数例は永続的低下になる。
  • 急性期の甲状腺中毒症が見逃され、その後一過性の甲状腺機能低下症で気づかれることがある。
  • TRAb陽性例が稀にある。

 

画像検査

エコー:急性甲状腺炎では、疼痛、圧痛部位に一致して、境界不明瞭な低エコー域が認められる。

甲状腺シンチグラフィ検査:甲状腺摂取率は亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎は低値となる。

 

治療

亜急性甲状腺炎

・基本的に無治療でも改善が得られる。

・運動を控え、安静を指示し、必要に応じて対症療法。

 

発熱や疼痛が軽度の場合や胃潰瘍や糖尿病でステロイドが用いにくい場合

解熱鎮痛薬を用いる。

 

処方例:ロキソニン、ムコスタ3錠分3毎後

 

発熱、疼痛で患者さんが参ってしまっている場合

速やかにステロイド内服を開始する。PSL15mg/日の内服から開始し、2週間ごとに5mgずつPSLを減量して中止する。PSLを使用する場合には消化性潰瘍や耐糖能障害などの副作用に留意する。

 

処方例:PSL(5)3錠分1朝後

 

甲状腺中毒症による交感神経刺激症状が強い場合

頻脈や動悸、手指振戦に対してβ遮断薬を併用する。気管支喘息や心不全の出現に注意する。多くのβ遮断薬が気管支喘息に禁忌の中、メインテートはβ1選択性が高く、慎重投与になっている。

 

処方例:①インデラル(10)3錠分3 毎食後 

  • メインテート(5)1錠分1朝後

 

無痛性甲状腺炎

無痛性甲状腺炎も甲状腺機能は自然回復するため無治療で経過観察を行うことが多い。しかし、甲状腺中毒症状が強い場合は上述するようなβブロッカーを投与する。無痛性甲状腺炎は亜急性甲状腺炎と異なり、発熱や頭痛を認めないため、ステロイド治療を必要としない。(アミオダロンによる無痛性甲状腺炎の場合などを除く。)

甲状腺機能低下時も通常治療は不要であるが、強い易疲労感や浮腫などを認める場合には、レボチロキシンナトリウムを投与する。無痛性甲状腺炎では、回復期に強い甲状腺機能低下症の症状が出現した報告もあるため、抗甲状腺薬は禁忌である。

 

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