抗甲状腺薬の副作用、開始前後の注意点と経過観察方法
抗甲状腺薬では10%以上に副作用を認める。抗甲状腺薬の副作用を表1に示す。副作用については、使用前より症状が出現した際の対処法を含め必ず説明が必要。また、開始前に白血球分画を含めた血算、血中ビリルビン値及び肝機能検査を行うべきである。
副作用は治療開始後3ヶ月以内に発症することが多く、重篤な副作用の発症時にはすぐに休薬をする。
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皮膚症状
皮膚症状には掻痒感や皮疹があり、開始後2〜3ヶ月後に起こりやすい。
軽度の場合、抗甲状腺薬を継続しながら抗ヒスタミン薬を追加する。
改善しない場合や、いずれの抗甲状腺薬でも症状が出現する場合、重度の皮疹では他の治療法に切り替える。
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無顆粒球症
無顆粒球症は、抗甲状腺薬の投与量に依存して発症する。
発症頻度:0.2〜0.5%とされている。
検査:抗甲状腺薬開始後少なくとも2カ月間は原則として2週間に1回の血算検査を行う。
対処:発症した場合には、直ちに抗甲状腺薬を中止し、無機ヨウ素に切り替え入院下に広域スペクトラムの抗菌薬を投与する。
無症候性で顆粒球100/μL以上の無顆粒球症の場合、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF) 75μg投与後、4時間で顆粒球数が回復する場合には入院不要であると弱く推奨された。また、顆粒球数100/μL未満の重症無顆粒球症の場合、G-CSF投与を行っても顆粒球数の回復には7日前後かかり、感染の軽減と死亡リスク低下は期待できないため、入院及び抗菌薬使用での適切な感染管理が重要である。しかし、G-CSF 300μg/日の程度の高用量は罹患期間短縮効果が期待できるため弱く推奨された。
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肝障害
治療開始なので肝機能の確認が必要である。治療開始から少なくとも2カ月間は原則として2週間に1回肝機能の検査を行う。重篤な肝機能障害が疑われたら、速やかに抗甲状腺薬を中止する。
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ANCA関連血管炎
抗甲状腺薬、特にPTUはANCA関連血管炎の原因として関連が強い。
症状>発熱、全身倦怠感、食欲不振、体重減少、関節痛
疑った場合>検尿検査、血清クレアチニン、CRP、MP O-ANCAを測定する。
ANCA関連血管炎を疑う症状があり、MPO-ANCA陽性を認めた場合は、直ちに抗甲状腺薬を中止する。
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抗甲状腺薬変更時の注意点
軽度の副作用が理由で、もう一方の抗甲状腺薬に変更する場合には、1度無機ヨウ素に変更し、副作用が消失してから変更する。変更後2ヶ月間は2週間ごとに副作用チェックを行う。
表1 抗甲状腺薬の副作用
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程度 |
頻度 |
種類 |
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軽度 |
1〜6% |
皮疹 |
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軽度肝機能障害 |
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筋肉痛 |
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関節痛 |
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重度 |
〜0.5% |
無顆粒球症 |
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重症肝障害 |
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多発関節炎 |
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ANCA関連血管炎 |
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インスリン自己免疫症候群 |
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HTLV-1関連ブドウ膜炎 |
参考文献>吉野聡 他, 日内会誌 111:2279-2284, 2022




